2020年施行の改正民法において、個人が賃貸借契約の連帯保証人になる場合、保証人が負担する最大の限度額を書面等で定めていなければ無効、とされるルールが新たに新設されました。*書面等、の等には、電磁記録も含まれています。
この場合の『個人』というのは法人に対しての概念ですので、保証人が複数人いても『個人』として扱われます。1人という意味の個人ではないので注意しましょう。
貸金債務の保証人の保護
個人が貸金債務の保証人となる場合、根保証契約は保証の限度額を定めなければ、その保証契約は無効とされています。(連帯保証人も同様)
根保証とは
一般的な保証は、返済が終わった段階で、保証契約が一旦消滅してしまいます。ですが、継続的に取引を行うような場合は、毎回保証契約をし直すのは非常に面倒なことから、現在の保証だけでなく、将来発生する複数の債務を継続して保証する『根保証契約』という制度があります。
『根保証』には、【極度額(限度額)】と【期間】に限定のない「包括根保証」、金額・期間の一方、あるいは両方を限定した「限定根保証」があります。
包括根保証は、債務者と債権者の取引から発生する債務をすべて無制限に保証することになりますから、主たる債務者が新たに借金をすれば、自動的に無制限で保証したことになってしまいます。
個人根保証の保護の拡大
個人が保証人の場合に限っては、限度額や期限の定めのない包括根保証は、2005年4月1日施行の改正民法によって禁止となり、【極度額(限度額)】と、【期間】(最長5年間、期間を定めてないときは3年間)を定めていない場合、その根保証契約は無効です。
これはあくまでも、貸金債務の個人根保証を対象とする法改正だったのですが、2020年施行の改正民法では、2005年(平成16年)に新設されたルールの適用範囲を広めて、個人による根保証契約一般に、保護を拡大する事となりました。
賃貸借契約における連帯保証人の保証の範囲について
『マンションを借りたいんですが、連帯保証人になって下さい。』
『はい、わかりました。』
などというように、保証人になって欲しいと頼まれたり、逆に自分から誰かに頼んだり、今後の人生において1度や2度くらいは、このようなやり取りがあるかもしれません。
・毎月の家賃
・滞納した家賃の利息や遅延損害金
・設備などを壊した場合などの修繕費
・賃借人が物件の中で死亡した場合の損害賠償
・明け渡し時の原状回復費用
・放置物の撤去費用etc.
など、賃貸借契約の連帯保証人は、このような複数の債務を継続して延々保証しなければなりません。賃貸借契約の連帯保証人を引き受けてしまったお陰で、想定していない金額の保証債務の請求が来てしまい、自らの生活が破綻してしまう、といった事例は少なくありません。
にもかかわらず、連帯保証人の負担する保証の限度額などを賃貸借契約書に明記しなければならない、といったルールは今までの法律にはありませんでした。
そこで、自分の予想をはるかに超える責任を負担させられることが無いようにと、あらかじめ保証の限度額を契約書に記載しなければいけない、という新たなルールが2020年施行の改正民法で新設されたのです。それが、新法465条の2項『個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。』です。
〔改正前民法〕
(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2
1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第446条第2項及び第3項の規定は、貸金等根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
【改正後民法】
(個人根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2
1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
賃貸借契約の連帯保証人が保証する極度額とは
2020年4月1日以降、賃貸借契約の保証人に個人がなる場合は、保証人がいくらまで保証するのかという、最大の限度額(極度額)を書面などで定めなければ、保証契約は無効になります。(保証人が法人である場合は適用外です。)
今回の改正による、保証人の保護拡大の趣旨は、極度額を書面などに記載して明確にすることで、最大限いくらまでの債務を自分が負担する可能性があるのか、という事を、連帯保証人に改めて具体的に認識させるということです。
極度額の金額の大きさに規制は特にないですが、あまりにも過大な極度額は無効とされる場合がありますので金額の設定には注意が必要です。固定された金額でさえあれば100万円・500万円などの具体的な金額じゃなくても構いません。
例えば家賃の10か月分などといった定め方でも有効なのです。でも、家賃が増額することにより保証の額までもが増額してしまうと、固定された金額ではなくなります。そのような事がないように、『賃貸借契約開始時の家賃の10か月分』というような書き方であることが望まれます。
保証人の極度額が100万円だとしましょう。家賃の滞納が50万あったとします、その50万円を保証人が支払った後、また家賃を滞納してしまい、70万円滞納してしまいました。この場合、極度額が100万円なので、保証人は50万円までしか払う必要はありません。賃貸人は連帯保証人に対して、極度額をオーバーした20万円については請求は出来ないのです。
今までに既に締結されている賃貸借契約も、個人が連帯保証人の場合は、契約書などに極度額を付け加えなければ連帯保証人に対して請求が出来ません。
不動産仲介業者さん・家主・借主・借主の保証人にとって、これは重要な法改正です。今後連帯保証人になってほしいとお願いされた個人は、連帯保証人を引き受けるかどうか、今まで以上に慎重になるでしょう。
ひと昔前までは、身内の方に連帯保証人になってもらうという事が当たり前だったのですが、最近では保証会社なども普及している為、今回の改正法で、今後ますます保証会社が活躍する時代になるのではないでしょうか。
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