改正前民法においては、敷金に関する規定が存在しませんでした。
実務においては判例をもとに、それぞれの解釈による曖昧な取り扱いをされてきた為、退去時の敷金によるトラブルが絶えませんでした。
こんぶ先生
トラブルが多いのは、規定が曖昧でルールがきちんと定まっていないからです。
敷金に当てはまるようなお金の受け渡しのことを、地域によっては、『保証金』といったように、敷金以外の名称を用いている場合もあり、名称に統一性がないことも問題視されていました。
こんぶ先生
このような問題点を踏まえ、2020年施行の改正民法では、敷金に関する定義を設け、条文を新設し、従来の判例法理による敷金の取り扱いを、分かりやすく明文化しました。
『敷金』改正後のポイント
- 名称を敷金に統一した
- 敷金の定義を分かりやすく明確にした
- 敷金は原則返還されるものであるとした
- 返還の範囲と、返還される時期が明確になった
敷金について新設された条文
改正民法622条の2
1項:賃貸人は,敷金(いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において,次に掲げるときは,賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
①号:賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。
②号:賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2項:賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において,賃借人は,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
敷金の定義
こんぶ先生
まずは、改正民法 第622条の2 第1項 前文から見ていくことにしましょう。
ここでは条文の括弧書きの中に、敷金の定義が書かれています。
敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう)
こんぶ先生
わかりやすく言えば、『敷金は、賃借人の賃料不払いや損害賠償債務を担保するために、あらかじめ家主に渡されるお金のことですよ』ということを言っているわけです。
ワカメちゃん
もし『保証金』などの名目でお金を受け取ったとしても、目的が『敷金』と同じなら、『敷金』として取り扱われるということですね。
敷金の返還とその範囲について
受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
こんぶ先生
具体的には、賃貸借契約を結んでから、明け渡しが完了するまでの間に発生した未払いの賃料は、敷金から差し引いて、返還されるという事が明記されています。
のり男
もし、賃借人が故意に床や壁などに傷をつけたりして、損害賠償義務を負っている場合も、それらを控除した上で、敷金が返還されるんだ!
敷金の返還時期について
ワカメちゃん
改正民法では、敷金がいつどのような時に返還されるのかという事も、わかりやすく明文化されました。
改正民法 第622条の2第1項1号
①賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
こんぶ先生
敷金は、契約が終了し、賃貸物件を明け渡してもらったときに、賃貸人から返還されます。敷金の返還と賃貸物件の返還は、同時履行ではなく、あくまでも賃借人の物件の返還の履行が先となります。
書類上で、賃貸借契約が終了していたとしても、まだ居住していたり、荷物が置きっぱなしだったり、きちんと退去していなければ敷金返還の請求は出来ません。
改正民法 第622条の2 第1項2号
②賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
こんぶ先生
賃貸人の許可を得たうえで、賃借権を第三者に譲った場合、敷金は返還されますよ、ということです。
敷金を債務の弁済にとの請求は、賃借人からは出来ない
最後に、改正民法 第622条の2第2項です。ここには、敷金を賃借人の債務に充当できるのは、賃貸人であるということが明文化されています。
賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において,賃借人は,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
こんぶ先生
賃貸人が、賃借人の債務に敷金を充当することは出来ますが、借主側から滞納した家賃を敷金から充当してほしいという風に請求することは出来ません。敷金はあくまでも家賃の担保だからです。
基本的には判例が認めていたことを明文化した内容ですので、実務が大きく変わることはないでしょう。
敷金に関しては、改正法と異なる特約を当事者間で定めることも可能ですので、マンションなどを借りるときの賃貸借契約書の敷金の項目が、どのような内容になっているのか、双方十分に確認が必要です。
こんぶ先生
以上、賃貸借の『敷金』に関する取り扱いについての説明でした。
ワカメちゃん
こんぶ先生!ありがとうございました。次回もお楽しみに!
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