前回は、改正民法166条の債権等の消滅時効について解説しました。
改正民法166条にておいて、原則的な消滅時効の期間は、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間」と定められています。
問題の所在
損害賠償請求権(=債権)は、債務不履行によって生じます。(旧)民法167条に「債権は、十年間行使しないときは、消滅する。」と規定されていました。
この規定は、財産権に関する損害であっても、生命・身体に関する損害であっても同様に扱われ、生命・身体に関する場合の侵害による損害賠償請求権について特別な規定はありませんでした。
しかし、生命・身体に関する損害は、従来から他の財産権よりも手厚く保護する必要があるという批判がされていました。例えばタクシーの乗車中に交通事故がおこった場合、運送契約の債務不履行により損害賠償請求権が発生しますが、長期入院している場合等は、迅速な権利行使が困難な場合があります。そういった場合に配慮した規定が必要だという意見もありました。
改正民法167条
改正民法167条では、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間の特則を規定しました。
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。
つまり、改正民法166条にておいて、原則的な消滅時効の期間は「権利を行使することができる時から10年間」と定められていますが、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができる時から20年間に長期化されました。
この20年間という期間は、条文に”消滅時効についての”と定められている通り、除斥期間ではなく時効期間です。除斥期間は、期間の経過により当然に権利が消滅するものであり、時効期間と異なり原則として更新や完成の猶予が認められません。当事者の援用も不要です。
20年の期間経過により当然に権利を消滅させてしまうのは、生命・身体のような重要な法益の保護に欠けるため、除斥期間ではなく消滅時効期間とされています。
問題(穴埋め条文)
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「( ① )」とする。
①二十年間
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