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前回は、『中央新人研修』の「前期日程」eラーニングと事前課題についてご紹介しました。今回は「後期日程」1日目の内容についてご紹介します。
後期日程の持ち物は「講義要綱Ⅰ・Ⅱ」「六法」「筆記用具」「受講証」「しおり」「健康保険証」「前期日程eラーニングアンケート」「事前課題レポート(2日目に使用)」です。
後期日程:1日目(1月22日(火))
後期日程の1日目のカリキュラムです。
時間 | 研修名 |
9:30-10:00 | 受付 |
10:00-11:20(80分) | 類型別要件事実「売買代金支払請求事件」 |
11:20-11:35 | 休憩 |
11:35-12:55(80分) | 類型別要件事実「貸金返還請求事件」 |
12:55-13:55 | 昼食 |
13:55-15:05(75分) | 類型別要件事実「建物明渡請求事件」 |
15:05-15:20 | 休憩 |
15:20-16:10(50分) | 即日起案 |
16:10-16:25 | 休憩 |
16:25-17:35(70分) | 解説 |
1日目は、講義で「売買代金請求訴訟」「貸金請求訴訟」「建物明渡請求訴訟」の3つの訴訟類型について、その訴訟物と典型的攻撃防御の構造を学んだ後、「即日起案」のコマで各自で訴状起案を行いました。
講義形式でしたが、ブロック研修のような大教室で全員が一緒に受講するのではなく、25名程度のグループに別れ、小教室で受講しました。
類型別要件事実「売買代金支払請求事件」
1コマ目は、「売買代金支払請求事件」についての講義でした。後期日程の初めてのコマだったので、始めに民事訴訟制度の総論的な内容の解説もありました。
「要件事実」と「訴訟物」
要件事実とは、「一定の法律効果を発生させる法律要件に該当する具体的事実」のことをいいます。
訴訟物とは、一言でいうと、「訴訟のテーマ」です。原告が訴えによって、その存否について裁判所の審理・判決を求める私法上の権利又は法律関係(=目に見えない請求権)のことを言います。売買代金支払請求事件の訴訟物は「売買契約に基づく代金支払請求権」になります。
要件事実最小限の原則
要件事実は過不足なく必要最小限の事実を挙げるべきだという考え方を「要件事実最小限(ミニマム)の原則」といいます。必要最小限の要件事実が主張立証されることによって、訴訟経済にも資するし、当事者の立証責任の負担も軽減されます。
売買代金支払請求事件の要件事実と請求原因
売買代金支払請求事件の要件事実は、民法555条で規定されている「財産権移転の約束」と「代金支払の約束」です。請求原因(※)は「XはYに対し、年月日、別紙物権目録記載の○○を金××円で売った」となります。
(※)民事訴訟において、訴えによる請求を特定の権利主張として構成するのに必要な事実のこと。(wikipediaより引用)
「契約締結日」「代金支払時期」「売主の目的物所有」「目的物の引渡し」は要件事実ではありません。
抗弁
被告としては、請求原因は認めるものの、「すでに弁済した」「期限の合意がある」「同時履行の抗弁権がある」などの事実がある場合、抗弁をすることになります。
附帯請求の訴訟物と要件事実
主たる請求の訴訟物は「売買契約に基づく代金支払請求権」ですが、附帯請求の訴訟物は「履行遅滞に基づく損害賠償請求権」になります。要件事実は以下になります。
(1) | 履行遅滞となる債務の発生原因事実(=売買契約の締結) |
(2) | 代金支払債務の履行期の経過 |
(3) | (1)の契約に基づく目的物の引渡しの提供 |
(4) | 損害の発生とその数額・(2)の時期以降の期間の経過 |
(5) | (1)の契約に基づく目的物の引渡し |
類型別要件事実「貸金返還請求事件」
2コマ目は、「貸金返還請求事件」についてでした。
貸金返還請求訴訟の訴訟物は、主たる請求については「消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」、附帯請求は「利息契約に基づく利息請求権」「履行遅滞に基づく損害賠償請求権」です。
主たる請求・附帯請求の要件事実
主たる請求「消費貸借契約に基づく貸金返還請求訴訟」の要件事実は、以下になります。
(1) | 金銭の返還合意(返還約束) |
(2) | 金銭の交付 |
(3) | 弁済期の合意 |
(4) | 弁済期の到来 |
附帯請求「利息契約に基づく利息請求権」の要件事実は以下になります。
(1) | 元本債権の発生原因事実(金銭消費貸借契約の締結) |
(2) | 利息支払の合意 |
(3) | (2)の後、一定期間の経過 |
附帯請求「履行遅滞に基づく損害賠償請求権」の要件事実は以下になります。
(1) | 元本債務(履行遅滞となる債務)の発生原因事実 |
(2) | 元本債務の弁済期が経過したこと |
(3) | 損害の発生とその数額 |
消滅時効の抗弁の要件事実
被告の抗弁としては、債権が時効消滅したことなどが挙げられます。
消滅時効の抗弁(要件事実)は以下になります。
(1) | 権利を行使することができる状態になったこと |
(2) | (1)の時から一定の期間が経過したこと |
(3) | 時効援用の意思表示をしたこと |
(4) | (現行民法の商事時効を主張する場合)、債権が商行為によって生じたものであること |
保証債務履行請求の訴訟物と要件事実
金銭消費貸借契約を締結するにあたって、第三者が保証契約を締結していた場合の保証債務履行請求の訴訟物は、「保証契約に基づく保証債務履行請求権」です。
保証契約に基づく保証債務履行請求の要件事実は以下になります。
(1) | 主たる債務の発生原因事実 |
(2) | (1)の債務を保証するとの合意 |
(3) | (2)の意思表示を書面、又は電磁的記録でしたこと |
類型別要件事実「建物明渡請求事件」
3コマ目は、「建物明渡請求事件」についてでした。
建物明渡請求訴訟の訴訟物は、主たる請求については「賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権」です。この他に「所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権」も考えられますが、通常は前者を選択します。
附帯請求は「賃貸借契約に基づく賃料支払請求権」「目的物返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権」です。損害賠償請求権については、「不法行為に基づく損害賠償請求権」や「不当利得に基づく利得金返還請求権」を選択することもできますが、「賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権」を訴訟物とするならば、「目的物返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権」を選択するのが通常です。
主たる請求「賃貸借契約終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権」についての要件事実は以下です。
(1) | 賃貸借契約の締結 |
(2) | (1)の契約に基づく引渡し |
(3) | 賃貸借契約の終了原因事実 |
附帯請求「賃貸借契約に基づく賃料支払請求権」についての要件事実は以下です。
(1) | 賃貸借契約の締結 |
(2) | (1)の契約に基づく引渡し |
(3) | 一定期間(賃貸借期間)の経過 |
(4) | 支払時期の到来 |
附帯請求「目的物返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権」についての要件事実は以下です。
(1) | 賃貸借契約の締結 |
(2) | (1)の契約に基づく引渡し |
(3) | 一定期間(賃貸借期間)の経過 |
(4) | 賃貸借契約の終了原因事実 |
(5) | 損害の発生及びその数額 |
即日起案&解説
これまでに学んだ内容をもとに、各自で起案しました。
起案は問題形式になっていて、内容をどこまで公開していいのか分からないので詳細には触れませんが、初学者の私には難しく感じました。ただ、講師が「この問題は基礎の基礎」だとおっしゃっていましたし、周りの受講生でスラスラと書いている方もいらっしゃったので、勉強を重ねるとススっと書ける内容なのかもしれません^^:
終わりに
中央新人研修の後期日程の1日目は、講義形式だと聞いていたので、始まる前は気楽な気持ちでいたのですが、小教室でインタラクティブな講義が展開されたり、即日起案で集中して問題を解いたりと、終わった後は結構ぐったりしてしまいました^^;。
でも講師が分かりやすく解説して下さったので、そもそも「要件事実とは何なのか」が分かっていなかった私にとって、とても為になる内容でした。受講して良かったです。



