2018年7月6日に改正民法の一環として「配偶者居住権」が参院本会議で可決・成立しました。配偶者居住権とは、“故人名義の不動産に住んでいた配偶者は、死ぬまで無償でその不動産に住み続けられる権利“のことをいいます。
なぜ配偶者居住権が提案されたの?
現在の法律では、遺産分割によって残された配偶者が自宅に住み続けることが出来なかったり、住み続けることが出来ても生活に困窮する事態が起こったりするケースが増えてきました。
夫:アオノリさん、妻:メカブさん、前妻との子:ヒジキ君がいたとします。
現在の妻メカブさんは前妻の子ヒジキ君のことをあまり良く思ってはいません。同様にヒジキ君も後妻であるメカブさんのことを気に入っていないようです。アオノリさんとメカブさんは、アオノリさん名義の自宅に一緒に住んでおり、ヒジキ君は賃貸アパートを借りて一人で住んでいます。
今般、夫のアオノリさんが不幸にも交通事故で亡くなりました。アオノリさんの相続人は、妻であるメカブさんと、子のヒジキ君です。法定相続分は妻メカブさん2分の1、子ヒジキ君2分の1になります。
遺産分割協議で亡夫アオノリさんの自宅の所有権の帰属を決めなかった場合は、妻メカブさんも子ヒジキ君も法定相続分の持分によって、自宅を全面的に使用する権利があります。ですので、子ヒジキ君が妻メカブさんに持分に基づいて自宅から出ていけということは当然には認められません。
そこでヒジキ君は、「メカブさんに出て行って貰えないのなら、メカブさんに賃料を払ってもらおう。」と考えました。
この場合に、ヒジキ君は法定相続分2分の1の持分に基づいてメカブさんに賃料請求ができるでしょうか?最高裁判所の判例は、「遺産分割協議によって自宅の所有権の帰属が確定するまでは、故人と同居していた相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認される」とし、遺産分割が確定するまでは当然には賃料を支払わずに無償で自宅に住むことができるとしました。
この事例のように、配偶者(妻)は夫が亡くなった後も自宅に住み続けることができるし、賃料も支払わなくてもいいので、一見すると、あえて配偶者居住権を創設する必要性がないようにも思えます。
しかしこれは、遺産分割協議で自宅の権利関係が確定するまでの話であり、いずれは遺産分割協議をして自宅の権利関係を確定しなくてはなりません。
妻メカブさんは自宅に住み続けたいと思っていたため、遺産分割協議によって自宅の所有権は妻メカブさんが取得し、その代償金として子ヒジキ君にいくらか金銭を支払うという分割協議がされることになりました。ヒジキ君は古家を貰うよりもお金が貰えるほうがいいかと思っていたので、この遺産分割協議は円満に進みました。
メカブさんは自宅の所有権を得たので、誰に文句を言われることなく自宅に住み続けることができるようになりました。
しかし、ヒジキ君にお金を払ってしまったために、手持ちのお金が不足して生活費に困窮してしまいました。メカブさんには収入を得る手段がなかったので、結局は生活費のために折角取得できた自宅を売って生活費にあてることになりました。
このように、現行の制度では自宅に住むことが出来ても、その後の生活が出来ないというケースが増えてきており、その対策を考える必要が出てきました。そこで考えられたのが「配偶者居住権」という制度です。
配偶者居住権って何?
冒頭で、配偶者居住権とは、“故人名義の不動産に住んでいた配偶者は、死ぬまで無償でその不動産に住み続けられる権利“であると言いました。配偶者居住権のポイントは、配偶者が自宅の所有権を全部取得しなくても、自宅に住み続けることができるようになったことです。
つまり、自宅を所有する権利(=所有権)を得なくても、住み続けることができる権利(=居住権)が法律で認められることになるのです。
亡夫アオノリさんの遺産は、自宅(評価額3000万円)と預貯金3000万円だったとします。この場合、法定相続分(妻・子2分の1づつ)に則って遺産分割協議をして妻メカブさんが自宅を分割により取得した場合には、預貯金3000万円は子ヒジキ君が取得することになります。
つまり、妻メカブさんは自宅の所有権を取得することが出来ても、お金は1円も貰えないことになります。
これに対して、配偶者居住権を利用した場合、居住権(=住む権利)は所有権(所有する権利)とは別個に考えられるので、メカブさんが自宅の居住権、ヒジキ君が負担付の所有権を取得するといった分割ができるようになります。そうすることで、妻メカブさんは預貯金を分割によって取得することができるようになります。
配偶者居住権が認められるためには?
配偶者居住権は、改正民法の条文に次のように規定されています。
(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
つまり、配偶者居住権を取得するためには、被相続人が亡くなった時に配偶者が一緒に住んでいて、遺産分割協議で配偶者居住権を取得するか、被相続人が遺言で“配偶者に配偶者居住権を取得させる”と規定することが必要です。この他、被相続人と配偶者との死因贈与契約や、裁判所の審判によっても取得することができます。
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