前回は、改正民法167条の人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効について解説しました。
問題の所在
損害賠償請求権は、債務不履行によって生じる他、不法行為によっても生じます。
例えば、タクシーに乗って移動中に、運転士の不注意で交通事故が起こった場合、運送契約の債務不履行によっても、運転ミスの不法行為によっても損害賠償を請求することができます。
債務不履行による損害賠償請求権(債権の消滅時効)は改正民法166条において「権利を行使することができることを知った時から5年間」又は「権利を行使できる時から10年間」、不法行為に基づく損害賠償請求権は、改正民法724条において「損害及び加害者を知った時から3年間」又は「不法行為の時から20年間」経過したときに消滅すると規定されています。
(旧)民法では、財産権に関する損害であっても、生命・身体に関する損害であっても同様に扱われ、生命・身体に関する場合の侵害による損害賠償請求権について特別な規定はありませんでした。
しかし、生命・身体に関する損害は、従来から他の財産権よりも手厚く保護する必要があるという批判がされていました。また、例えば医療ミスにより医療機関・医師に対する損害賠償請求は、迅速な権利行使が困難な場合があります。そういった場合に配慮した規定が必要だという意見もありました。
そこで改正民法724条の2では、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効を規定しました。
改正民法724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
※前条とは、不法行為の損害賠償請求権の消滅時効の期間について規定した条文(改正民法724条)のことです。
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間については、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間ではなく、5年間で時効消滅することになりました。
つまり、人の生命又は身体を害する場合は、債務不履行責任を問う場合と、不法行為責任と問う場合とで、消滅時効の期間が統一化されたことになります。
債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間ですが、人の生命又は身体を害する場合は、権利を行使することができる時から20年間になります。(改正民法166条1項・167条)
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、損害及び加害者を知った時から3年間ですが、人の生命又は身体を害する場合は知った時から5年間、不法行為の時から20年間になります。(改正後民法724条・724条の2)
問題(穴埋め条文)
改正民法第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
改正民法第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「( ① )」とする。
①五年間
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