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即時取得の条文は、民法の中でも特に重要な条文になりますので、条文番号(192)とともに一緒に覚えてしまいましょう。
事例
あなたをAさんとします。以下の事例を自分に置き換えてイメージしながら読んでみてください。
Aさんは、友達のBさんから時計を買いました。しかし、実はその時計は、Bさんのものではなく、BさんがCさんから借りていたものでした。
この場合、Aさんは、時計をBさん又はCさんに返さないといけないでしょうか?
もし返さないといけないとすると、Bさんを信じてお金を払って買ったAさんがとてもかわいそうですね。
ただし、のり男くんの言うように、Aさんはそれでよくても、今度はCさんがかわいそうです。
そこで民法では、Aさんが本当にBさんのものであると信じて買ったときのみ、返さなくてよいとしています。
無権利者であるBさんから時計を買ったAさんに、完全な権利を取得できるようにした制度を「即時取得」といいます。
しかし即時取得が成立すると、真の所有者であるCさんがかわいそうなことになるので、民法では即時取得の成立要件を細かく定めています。
民法192条 即時取得
条文
民法では、即時取得について192条で定めています。
民法192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
読点で区切られている箇所が多くて、「かつ」も2か所に出てきて、なんだかこれだけ読んでもよく分からない条文ですね…。
取引行為によって、
先の事例で、Aさんは、Bさんと売買や贈与などの有効な取引をしていることが必要です。
例えば、相続は取引行為ではないので、Aさんのお父様が亡くなり、お父様の時計だと思って相続した時計が他人のものだった時は、Aさんとお父様には有効な取引がありませんので、即時取得は成立しません。
また、取引には有効性が求められますので、制限行為能力者とした取引や、錯誤や詐欺、脅迫、無権代理などの無効または取り消すことができる取引行為についても即時取得は成立しません。
平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、
平穏・公然は、占有を始めた時に満たされていることが必要です。
不動産には登記という公示制度がありますが、動産には登記のような公示制度はなく、引き渡しが対抗要件になっていますが、これでは公示手段として十分ではないため、動産のみ対象としています。
ちなみに判例では、「金銭」は動産ではないとされています。
善意であり、かつ、過失がないときは、
平穏・公然と同じく、善意・無過失は、占有を始めた時に満たされていることが必要です。
また、平穏・公然・善意・無過失は推定されます。推定されると、Aさんではなく、真の権利者Cさんが、Aさんが平穏・公然・善意・無過失でなかったことを立証する責任を負います。
即時にその動産について行使する権利を取得する。
有効な取引行為によって時計の占有を平穏・公然・善意・無過失で始めたAさんは、時計の所有権を取得することができます。
ここで注意するのは、条文では「権利」となっていることです。
構成要件まとめ
条文で規定している構成要件をまとめると、以下のようになります。
- Bさんとの間に有効な取引行為があること
- Aさんは、平穏・公然・善意・無過失に占有を始めたこと
- 対象が動産であること
これはもともと即時取得が無権利者であるBさんを信用してAさんを保護するための規定ですから、当然といえば当然ですね。
まず、即時取得の構成要件は「4つ」と覚えてください。
そして「前主が無権利で占有していた動産を、有効な取引行為で平穏・公然・善意・無過失に占有を始めた」と一文にして覚えるのはいかがでしょうか。
問題
それでは問題にチャレンジしてみましょう。
AがBに時計を贈与した。BはAに貰った時計が本当はCの時計であることを、過失により知らなかった。この場合、Aは即時取得により時計の所有権を取得する。○か×か。
即時取得が成立するには、善意・無過失が必要でしたね、Bには過失があるので即時取得は成立せず、答えは「×」となります。
終わりに
即時取得には他にも占有の要件や盗品に関する例外など、紹介したいことが沢山あるのですが、今回の内容を抑えておけば基本は十分です。
今回はここまでになります。
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